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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1658号 判決 1977年10月31日

控訴人 石井鏡雄

右訴訟代理人弁護士 奥野彦六

同 奥野善彦

同 下河邊和彦

被控訴人 土肥英雄

右訴訟代理人弁護士 土肥駿三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し本判決別紙物件目録(一)記載の建物を収去して同目録(二)記載の土地を明渡しかつ昭和四六年五月四日から右明渡しずみに至るまで一ヶ月金一万三一〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴人代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり訂正付加するほか、原判決書事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  原判決書二枚目裏一行目に「原告」とあるのを「被控訴人」と、同三行目に「米」とあるのを「メートル」と各訂正し、原判決別紙物件目録を本判決別紙物件目録のとおり訂正する。

二  被控訴人の主張の付加

1  原判決書三枚目表九行目に「得ている。」とある次に「仮に駿三が敷地賃借権を被控訴人に贈与したものではなく、駿三が建物を被控訴人に贈与し敷地を被控訴人に転貸したものであったとしても、右について権之助の承諾があった。」を加え、同一〇行目に「賃借権の譲渡」とある次に「ないし転貸」を加え、同裏六行目に「賃借人」とある次に「ないし転借人」を加え、同八行目に「賃借権」とある次に「ないし転借権」を加える。

2  本訴は控訴人の害意または恣意によるものである。控訴人は相続後昭和三八、九年頃から同四〇、四一年頃にかけ連続して多数の借地人に賃料値上げを通告したので、昭和四二年借地人等は地主反対同盟を結成して控訴人に対抗することになった。その後借地人のなかに賃料を供託する者が増加したとかで、右は土肥駿三弁護士が使そうした結果であるかのごとく控訴人は誤認して同弁護士に対し害意を抱くに至ったという風評があった。そこで控訴人は建物の登記名義を調べ、被控訴人名義となっていることを発見し、これを奇貨として昭和四六年本訴を提起したのである。本訴は、昭和二八年以来同四六年まで引続き一八年間も平穏公然善意無過失に安住した被控訴人にとっては社会市民生活の安全に対する暴挙であり、信義誠実の原則に違反し、権利の濫用であって許されない。

三  被控訴人の右の主張に対する控訴人の答弁

争う。

《証拠関係省略》

理由

一  本判決別紙物件目録二記載の土地(以下本件土地という。)がもと石井権之助の所有であったが、同人が昭和三五年一月二五日死亡し、控訴人が相続によって本件土地の所有権を取得したこと、本件土地上に被控訴人所有の本判決別紙物件目録一記載の建物(以下本件建物という。)が存在することは当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すれば次の事実が認められる。

富田政男は昭和二七年七月一日本件土地を石井権之助から賃借し、同地上に本件建物を建築所有した。被控訴人の父土肥駿三は昭和二八年六月三日富田政男から本件建物および本件土地賃借権を金九八万五〇〇〇円にて買い受け、その頃富田政男とともに石井権之助を訪ずれ、本件土地賃借権の右譲受けにつき石井権之助の承諾を得た。土肥駿三は当時同居していた被控訴人が慶応義塾大学医学部を卒業し臨床研修中であり、被控訴人が本件建物で開業する場合の便宜を考えて被控訴人に本件建物を贈与することとし、同月二五日本件建物につき中間省略登記の方法で直接被控訴人のため所有権移転登記がなされた。その後土肥駿三は同年七月一日石井権之助に土地賃貸借証書(甲第一号証)を差し入れ、改めて本件土地を普通建物所有の目的で石井権之助から賃借した。そして以来土肥駿三は本件建物に居住し(被控訴人も昭和四一年まで同居していた。)本件土地の賃料を石井権之助や控訴人に支払ってきた(もっとも昭和四一年七月分以降の分は賃料値上げの問題をめぐって紛争を生じ土肥駿三において供託している。)。

被控訴人は「土肥駿三は本件建物を被控訴人に贈与するとともに本件土地賃借権をもあわせて被控訴人に贈与したものである。」と主張するけれども、《証拠省略》中被控訴人の右主張にそう部分は前掲各証拠に照らして信用し難く、他に被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠なく、上記の認定事実によれば、土肥駿三は本件建物を被控訴人に贈与するとともに本件土地を被控訴人に普通建物所有の目的で無償にて転貸したものと認めるのが相当である。

三  被控訴人は「土肥駿三は本件土地を被控訴人に転貸することについて石井権之助の承諾を得ている。」と主張し、原審証人土肥駿三は昭和二八年六月一〇日頃の午後二時ないし四時頃富田政男とともに石井権之助を訪ずれた際本件土地賃借権の譲受けについてのみならず本件建物の所有名義を被控訴人とすることについても石井権之助の口頭の承諾を得た旨供述する。しかし上記の認定事実によれば、土肥駿三は本件建物を自己以外の者の名義とするといっても、同居の子の名義にするのであり、これによって子に本件土地の使用を全く委ね転借料を負担させるわけでもないのであり、またその後昭和二八年七月一日土肥駿三が本件土地の賃貸借に関して石井権之助に差し入れた土地賃貸借証書には本件土地を被控訴人に転貸することについての記載がなんらないことは前掲甲第一号証の記載上明らかであって、土肥駿三が当時本件建物の所有名義を被控訴人とすることを重要視し、この旨をとくに石井権之助に申し出たということには疑問の余地なしとしないのであり、このことに《証拠省略》を考えあわせて対比すれば、原審証人土肥駿三の前記供述はたやすく採用し難く、他に被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。したがって土肥駿三、被控訴人間の本件土地転貸借は賃貸人の承諾のないものといわねばならない。

四  しかし、上記の認定事実によれば、土肥駿三は本件土地を被控訴人に転貸した当時被控訴人は同居の家族の一員であって、前記のような事情から被控訴人の将来の便宜を考えて本件建物を被控訴人に贈与して本件土地を被控訴人に転貸したのであり、土肥駿三は本件土地賃借以来本件建物に居住し、本件土地および本件建物を現実には管理してきていることが認められ、右転貸借によって控訴人が特段な損害を被ったないし被るべきことはなんらこれを認むべき証拠がない本件においては、右転貸借は未だ賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないというべきである。

五  控訴人は「被控訴人は二〇年間の長きに亘り一度も賃料を支払っていないので、本訴において賃料不払いを理由に本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。」と主張する。しかし石井権之助ないし控訴人と被控訴人との間に本件土地の賃貸借関係が存在するのではないことは前記認定のとおりであり、また被控訴人が石井権之助ないし控訴人に対し本件土地の賃料を支払うべき義務を負うべきいわれもこれを認めることができないから、控訴人の右主張は採用の限りでない。

六  以上のとおりであるから、被控訴人は控訴人に対し本件土地につき上記の転借権をもって対抗できるものというべく、したがって控訴人の本訴請求はその余の点にふれるまでもなく失当として棄却を免れない。

七  よって一部理由を異にするが結局控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第二項によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 園田治 木村輝武)

<以下省略>

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